皆川博子「ペガサスの挽歌」

ながしょ

2012年10月30日 20:40


「ペガサスの挽歌」
皆川博子/著
七北数人/編
烏有書林/編
税込価格2,520円
出版年月2012年10月








「…男か女かわからない、この上なく美しい顔をしていた。
美しくて怖かった。
だから、あたしは、怖いところのないものは美しいと思わないし、美しさを持たないものは怖いと思わないようになったほどだ。」(収録作品『天使』より)


幻の児童文学作品四篇と、七〇年代に発表された単行本未収録作品がついに一冊の本に!
烏有書林……やりおる。ありがとおっ!
ナガショのお客さんの中には、1、2名の皆川博子ファンが存在しているような、気がする…。まだ姿を見たことはないけれど、お知らせします。
短編集でました。もう幻じゃないのだ。
収録作品は以下。
・花のないお墓
・コンクリ虫
・こだま
・ギターと若者
・地獄のオルフェ
・天使
・ペガサスの挽歌
・試罪の冠
・黄泉の女
・声
・家族の死
・朱妖

幻想小説。時代小説。歴史小説。ミステリー。そして絵本も書く。
あらゆるジャンルの境界線を越える作家、それが皆川博子。
デビュー40周年にして、その創作意欲はいよいよ盛んです。
彼女の作家デビュー作が、児童文学であることをご存知でしょうか。

「ペガサスの挽歌」巻末の解説によると、残念ながらその作品は活字にはならなかったのですが、デビュー作の「海と十字架」の原形であるらしいのです。

「海と十字架」は偕成社文庫として世にでますが、絶版。
のちに収録されることになる「皆川博子作品精華」も、品切れ・重版未定。
「炎のように鳥のように」もかい。

…とまあ、たとえ皆川博子といえど、浮き沈みの激しい出版界の荒波にもまれて、単行本に収録されず沈んだままの作品も多いそうなのですが、このたびようやく四つの物語が掬いあげられることになりました。貴重です。

実際に読んで思ったことは…体裁は違っても、根底に流れるものはみな同じ匂いがする。
激しく、何かを希求する人間の声にならない叫び、のようなものを書いているように感じる。
それがミステリーでも、絵本でも。というか、枠組みは関係ないですね。
でもさ、どろっどろに渦巻く情念や、分かち難くなった愛やら殺意やらをあっさりとした文章で書いてしまい、「男女間の純愛。そんなものは、ねえ。」というメッセージが見え隠れする作者の児童文学ってどんなんよと気になっていた方は、手にとってみてください。

あ、でもコンクリ虫はかわいいよ。 佐藤
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