気になる新刊

ながしょ

2012年07月12日 10:00



こんにちは、スタッフの児玉です。新刊を5点紹介いたします。まずは福岡県出身の画家、野見山暁治(のみやま ぎょうじ)さん関連の本を2点ご紹介します。野見山さんはこれまで文筆の仕事もたくさんしてきており、1978年には日本エッセイスト・クラブ賞も受賞した名随筆家でもあります。

1冊目は、雑誌『美術の窓』で2003年から連載された日記をまとめた『アトリエ日記』『続 アトリエ日記』につづく3冊目、『続々 アトリエ日記』です。野見山さんの底抜けの楽天家ぶりが窺える楽しい本です。茶目っ気のある小粋な文章、と同時にことばに円熟味があるのは、さすが90歳といったところでしょうか(今年92歳になられますが本書は90歳の頃以降のコラムです)。
続々 アトリエ日記/野見山暁治/清流出版/2520円



そして野見山さん関連のもう1冊は、先週出たばかりのユリイカ8月臨時増刊号『野見山暁治 絵とことば』です。こちらはユリイカらしく野見山さんの対談や多彩な寄稿者陣による論考やエッセイが収録されているのはもちろん、野見山さんの作品もカラーで多数掲載されている豪華な仕上がりの1冊。版元の青土社が「渾身の総特集号」と謳っているのもうなうなずけます。昨年末にブリヂストン美術館で開かれた野見山暁治展も大成功だったようで、90歳を越えてなお衰えぬ創作熱を持ち続ける野見山暁治さんに、今再び注目が集まっています。当店も注目しています。
ユリイカ 2012年8月臨時創刊号 野見山暁治 絵とことば きょうも描いて、あしたも描いて、90年/青土社/1600円



福岡県生まれと言えばこの方もそうです。超人気作家・佐伯泰英さんの初めてのエッセイが出版されました。惜櫟荘(せきれいそう)とは、岩波書店創業者である岩波茂雄のかつての別荘で、近代を代表する建築家・吉田五十八(いそや)の最高傑作のひとつに数えられるという名建築です。1941年に完成した惜櫟荘は近年ほとんど使われずにいたようですが、縁あって惜櫟荘を譲り受け、修復保全に取り組むことになったのが佐伯さんでした。修復完成までの顛末と、それにまつわるエピソードを交えて綴られた、「文庫が建て、文庫が守った惜櫟荘が主人公の物語です。」
惜櫟荘だより/佐伯泰英/岩波書店/1575円



紹介する本のおもむきが唐突に変わりますが、宗教書です。出版社による本書の紹介に「一千年以上にわたる民族離散の歴史を背景に、13世紀スペインに出現した作者未詳の伝承テクスト『ゾーハル』(光輝の書)。」とあります。13世紀スペインに出現した(本)、と言われると私などはそれだけで安易に魅かれてしまいますが、それを今や日本語で読めるとは本当に凄いことだと思います。実際に読むのは並大抵のことではないでしょうけれども…。ゾーハルは、ユダヤ教神秘思想(カバラ)における根本経典で、旧約聖書の最初の五書<モーセ五書>を解釈した聖典だそうです。当店は小さな本屋さんですが、こんな本も並べていたりします。
ゾーハル カバラーの聖典 叢書・ウニベルシタス976/エルンスト・ミュラー編訳、石丸昭二訳/法政大学出版会/5670円




最後に紹介する本は、小説『ベルリン・アレクサンダー広場』です。著者はシュテッティン(現ポーランドの都市)生まれのユダヤ人作家アルフレート・デーブリーンです。ほぼ2段組みで500頁を超える大作です。1929年に刊行された本書は、ナチス支配に至るまでの数年間ベストセラーの座を保持し続けたそうで、多数の外国語にも翻訳されたデーブリーンの代表作とされています。ジョイスの「ユリシーズ」、ムージルの「特性のない男」、セリーヌの「夜の果てへの旅」とも並べて讃えられるほどの小説が、このたび復刊新版として蘇りました。
ベルリン・アレクサンダー広場/アルフレート・デーブリーン/河出書房新社/4935円

以上5点、店頭にて販売中です。
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