どうで死ぬ身の一踊り

ながしょ

2009年12月24日 00:00



西村賢太/〔著〕


出版社名 講談社
出版年月 2009年1月
ISBNコード 978-4-06-276253-3
(4-06-276253-6)
税込価格 550円





何んのそのどうで死ぬ身の一踊り  -藤澤淸造


こんにちは、スタッフのkです。
今回ご紹介するのはこちらです。
主人公は、著者本人と思われる男性(名前も同じ)。
帯には、
「平成の世にいきなり出現した衝撃の私小説!」
とあります。
なにが「衝撃」なのか・・・・・・と考えると、
たぶんこの主人公のとんでもなさと、
それを本人だとわかる形で堂々と書いてしまった著者への
驚嘆だろうと思います。

冒頭に引用した藤澤淸造という人物は、
明治~大正期に実在した作家です。
主人公はその藤澤淸造に肩入れしていて、
お墓を訪ねるのはもちろん、
藤澤の墓標を自宅アパートへ持ち帰ったり、
藤澤全集を自分で編纂しようと算段したり。

こういったことにはお金がかかるのですが、
それを同居している彼女に無心し(彼自身は働いていません)、
さらには彼女の両親に借金し、
苛々すれば、彼女への暴力。


ひどいですね。(他に言葉がない)

それでも私はこの小説が好きです。
特に好きなのは、同居している彼女とのやりとり。
大正期の作家に傾倒しているだけあって
地の文はちょっと固めです。
しかし彼女とのやりとりが始まると、
小説が一気にハネる! というような感じがあり、そこが快感です。

とりわけ好きなのは彼女のセリフ。

「なに言ってんのよ、うちからさんざん借金してるくせに!
言う筋合いはあるよ。
毎月の生活費だって、あたしが毎日立ち尽くめになって
稼いできてるものじゃない」

「勝手に違う話にしないでよ、おんなし話じゃない!
あなたはすぐそうだもんね、いっつも自分の都合ばっか言うんだよね」



こんな現実味のあるセリフを久しぶりに見たなという感じです。
それが、このタイトルで、かつ固い文章の中から
ひょっこり出てきたときの印象は、
まさに『衝撃』としか言いようのないものでした。

本書には表題作ふくめ3つの短編が入っています。
なかでも最後の一篇「一夜」は、
ふたりの言い合いっぷりが見事で笑えます。

いよいよクリスマス到来ですね。
みなさんは、どうぞ仲良く過ごされてください。
派手なケンカなどなさらぬよう!
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