モモ
岩波少年文庫 127
ミヒャエル・エンデ/作 大島かおり/訳
出版社名 岩波書店
出版年月 2005年6月
ISBNコード 978-4-00-114127-6
(4-00-114127-2)
税込価格 840円
頁数・縦 409P 18cm
「とてもとてもふしぎな、それでいてきわめて日常的なひとつの秘密があります。
すべての人間はそれにかかわりあい、それをよく知っていますが、そのことを考えてみる人はほとんどいません。
たいていの人はその分けまえをもらうだけもらって、それをいっこうにふしぎとも思わないのです。
この秘密とは―」
こんにちは。スタッフのIです。
今回、私がご紹介するのは、エンデの名作「モモ」です。
これは時間どろぼうと ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語です。
このお話の中でとっても心に残った部分があったので、ここでお話させてくださいね。
ある日、町はずれの円形劇場あとに不思議な少女モモがまよいこんできます。
モモのところには、入れかわりたちかわり、みんなが訪ねてきました。
町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、いつも幸福な気持ちになるのでした。
話を聞いてもらうだけで幸せな気持ちになるとは、モモにはどんな不思議な力があったのでしょう?
みなさんは何だと思いますか?
人を幸せにさせるような不思議な魔法が使えたのでしょうか?
それとも、知識がすばらしく豊富で、何かすばらしいアドバイスをしてあげられたのでしょうか?
いいえ、違います。
「小さなモモにできたこと、それはほかでもありません。
あいての話を聞くことでした。
なあんだ、そんなこと、とみなさんは言うでしょうね。
話を聞くなんてだれにだってできるじゃないかって。
でもそれはまちがいです。
ほんとうに聞くことのできる人は、めったにいないものです。
そしてこのてんでモモは、それこそほかにはれいのないすばらしい才能をもっていたのです。」
ここに書いてあるように、人の話を聞くこと、こんなに難しいことはありません。
ほとんどの人は、相手が話しているときに、自分は何を話そうかを考えているものです。
本当に人の話を聞くこと、それは自分の頭を空っぽにして、心を傾けることです。
「傾聴する」は、「傾けて聴く」と書きます。
聞くは、ただ耳に音がきこえること。聴くは自分の意志で、身を入れてきくことです。
心から聞くとき、話をしている人は気分が良くなったり、新しい考えが浮かんできたりしてきます。
たとえばこんなふうにです。
「モモに話を聞いてもらっていると、ばかな人にもきゅうにまともな考えがうかんできます。
モモがそういう考えをひきだすようなことを言ったり質問したりした、というわけではないのです。
ただじっとすわって、注意ぶかく聞いているだけです。
その大きな黒い目は、あいてをじっと見つめています。
するとあいてには、じぶんのどこにそんなものがひそんでいたのかとおどろくような考えが、すうっとうかびあがってくるのです。
モモに話を聞いてもらっていると、どうしてよいかわからずに思いまよっていた人は、きゅうに自分の意志がはっきりしてきます。
ひっこみじあんの人には、きゅうに目の前がひらけ、勇気がでてきます。
不幸な人、なやみのある人には、希望とあかるさがわいてきます。」
人の話を聞くこと、みんなが当たり前にできると思っていること、本当はできている人はほんのわずかです。
人の話を心から聞くということ、今日から少し意識してやってみませんか?
相手の表情がまるで変わってくることにあなたも気づくはずです。
モモにだってできたのですから、あなたにできないはずはありません。
神さまが人間の口をひとつ、耳をふたつ創られたのは、話すことの二倍、人の話が聞けるようにです。
目が二つあるのはきっと、目に見えるものと、見えないものを、両方をしっかり見つめることができるように。
手が二本あるのはきっと、大切な人を強く、確実に、抱きしめることができるように。
意味があってこの身体が創られたのなら、その意味の通りに生きていきましょう。
こころのままに、創造されたままに、いつも私たちが生きることができますように。
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