春のオルガン

ながしょ

2008年12月19日 08:00

春のオルガン
著者 湯本香樹実
出版社 新潮社
出版年月 2008年7月
ISBN 978-4-10-131513-3
税込価格 420円
分類 文庫/日本文学




[簡単なあらすじ]
小学校を卒業した春休み、私は弟のテツと川原に放置されたバスで眠った―――。
大人たちのトラブル、自分もまた子供から大人に変わってゆくことへの戸惑いの中で、トモミは少しずつまだ見ぬ世界に足を踏み出してゆく。ガラクタ、野良猫たち、雷の音……ばらばらだったすべてが、いつかひとつでも欠けてはならないものになっていた。少女の揺れ動く季節を瑞々しく描いた珠玉の物語。
(背表紙より引用)
こんにちは。
スタッフのNです。

人生は選択だというように、ひとりの人間にはたくさんの可能性の道のようなものがあり、その枝分かれした道をどんな風に辿ってゆくのかで人生が変わってゆきます。
おそらくその枝分かれした道の前でどこへ行けばいいのだろうか、と立ち尽くしているのが、この物語の主人公・トモミであり、子供の頃のあなたであり、私であるのです。

この物語を読んで、「大人になる」というのはどういうことなのかとしばらく考えました。
子供の頃と今とで大きく違うことはなんだろうかと考えた時、私の場合は許せることが増えたことでした。
許せないことの方が少ないくらい、今は大抵のことは許せます。
子供の頃は許せないことだらけだったなぁ…。
すると、「大人になる」ことは許せること、すなわち受け入れられることが増えてゆくことなのかなと思いました。

主人公・トモミも、少しずつ色んなことを受け入れていきます。
みんな自分の世界に閉じこもって勝手なことをしているように見えた世界を、それはそれぞれの理由があってそうするしかないのだと体で理解します。
祖母の死に、誰にも言えなかった罪悪感と後悔を抱き続け、祖父に打ち明けた時の祖父からの言葉に、罪悪感を感じても後悔してもいいのだと感じ、はじめてであった死も受け入れてゆきます。

世の中にはどうしようもないことがたくさんあります。
子供にはきっと許せないことばかりでしょう。
けれど、大人への道を歩み始めたトモミはこう言います。
「どうしようもないことってあるね」
「だけど、テツ、がんばってよかったんだよね」
そのどうしようもないことの何かひとつでも欠けたら、トモミは弟のテツががんばってよかったんだとは思わなかったかもしれません。
たくさんのどうしようもないかもしれないことのために勇気を出して戦ったからこそ、がんばってよかったんだと知るのです。
そのどうしようもないことと戦う勇気は、きっとこのどうしようもない世界で私たちが生きていくことと同じことなのでしょう。

大人になってもいいことはなさそうだし、子供の世界はもううんざりだと思い続けていた子供の頃の私に教えてあげたいです。
大人になるっていいもんだよ、もうちょっとすれば楽になれるよ、と。




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