夜のミッキー・マウス

ながしょ

2008年11月14日 23:30


夜のミッキー・マウス

著者 谷川俊太郎
出版社 新潮社
出版年月 2006年7月
ISBN 978-4-10-126622-0
税込価格 340円
分類 文庫/日本文学


ちょっとしたプログラムのバグなんだ多分
そう考えてアトムは両足のロケットを噴射して
夕日のかなたへと飛び立っていく
(百三歳になったアトムより一部引用)
谷川俊太郎氏は私の祖母と歳が一つ違いである、ということを知り、ちょっと親近感がわいてしまった今日この頃。
またしても谷川俊太郎氏にやられてしまいました。
このタイトル。
「夜のミッキー・マウス」
ミッキー・マウスといえばあの世界一有名で人気者のネズミ。
彼に夜が似合わないこともないが、なんだか孤独で惨めなミッキーの姿を想像してしまったのでつい買ってしまいました。

ミッキー・マウスの詩もすごく好きですが、ああまたしても氏にやられてしまったなぁと思ったのは「百三歳になったアトム」。
彼がロボットであるが故に抱える孤独をこんなにも素敵に表現出来るだなんて…。
ラストでアトムはすべてをバグのせいにして飛び立っていきます。
ロボットらしからぬ知性や情を身に着けても、結局アトムはアトムでありそれ以外の何者にもなれないのです。
そういうリアリティが素晴らしく好きです。

また、漫画家・しりあがり寿さんの解説も素晴らしいものでした。
解説というよりは「谷川俊太郎氏の詩になりたい」という思いを連ねたもので、解説や説明が嫌いな私でも思わずじっくり読んでしまいました。
詩の素晴らしさをすごくわかりやすく伝えていらっしゃいます。

詩を読んだからといって、なにかが劇的に変わるものではありません。
幸せな気分になったり、涙を流してしまうようなこともそんなにはないのです。
しかも、シンプルな佇まいでありながらわかりやすいものでもない。
だからこそ、私たちは詩を欲するのではないでしょうか。
陳腐でありふれたメッセージ、悪寒が走りそうな甘く嘘にまみれた言葉、耳を塞いでもきこえてきそうなそんなものではなく、そこには淡々とした言葉の羅列が、裸の詩人の姿が静かにひっそりと存在します。
耳を澄まさないと、目を凝らさないとわからないくらいに。
受け手によってそれは様々なものに変わっていきます。
私が、アトムはアトムでありそれ以外の何者でもないのだ、と「百三歳になったアトム」を読んで感じたように。
他の誰かもまた違った感想を抱くことでしょう。
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