最後の家族
引きこもりはどうして引きこもるのか。
それは、それがその人にとって必要なことだからだ。
最後の家族
著者 村上龍
出版社 幻冬舎
ISBN 978-4-344-40957-6
税込価格 600円
引きこもりを続け家族に暴力を振るう二十一歳の内山秀樹とその家族。
過酷な現実にさらされ崩壊へと向かう内山家。
一人ひとりはどうやって生き延びていくのか?
家族について書かれた残酷で幸福な最後の物語。
(裏表紙より一部引用)
これは高校三年生の夏休みに初めて読んだのですが、それから数年たった今もたまに読み返します。
何度も何度も読み返す本の中の一冊です。
当時ドラマ化もされたらしいのですが、テレビを当時あまり見なかったので、残念ながら全く知りませんでした。
村上龍さんの徹底した取材と巧妙な構成力には圧巻です。
丁寧で誠意のあるものをお書きになる印象があります。
「親しい人の自立は、その近くにいる人を救うんです。一人で生きていけるようになること。それだけが、誰か親しい人を結果的に救うんです」
(最後の家族 P303より引用)
上の言葉は、後半に登場する女性弁護士・田崎の言葉で、最も印象に残っている部分です。読んでしばらくして、その言葉を身を持って実感し、今も実感し続けています。私はこの言葉を信じて今も生きているような気がします。
そして、この本の中で重要であると感じた部分が以下の一文です。
兄が引きこもっているのは、それが兄にとって必要だからだ
(最後の家族 P31より引用)
引きこもりという言葉がこれだけ社会に浸透しているのに、その現状や真実は正確には浸透せず、心無いイメージばかりが蔓延しているように思います。
うつ病などの精神の病に関しても同様のことが言えるでしょう。
もちろん当事者でなければわからないことが多く、頭ごなしに「理解しろ」とは言えませんし、無理に理解させたところで、真の理解などありえません。
しかし、引きこもりも精神の病もそれがその人にとって必要だから、ということだけは念頭に入れておいて欲しいのです。
心無いイメージで、高みの見物で批判するのはあまりにも稚拙で簡単すぎます。
解説にもありますが、この本は当事者を苦しめる「世間」や「正論」を少しずつ変質させていくきっかけなのでしょう。
そうでなければ、この本が世に出て、ドラマ化までされた意味がないように思います。
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