気になる新刊
伊勢国で病み倒れ、死を前にしたヤマトタケルが歌ったと言われる国偲歌(くにしのびうた)の一首に始まり、浄瑠璃、漢詩、新体詩、モダニズム詩、プロレタリア詩などなど、古典や近代の詩から現代詩まで少し踏み込んだ、熊本在住の評論家・渡辺京二さん厳選の、日本詩歌のアンソロジー的1冊が発売されました。
タイトルに『思出草』とあるように、渡辺さんが少年期から親しんできた詩歌作品をたくさん紹介しつつ、それぞれに、これらの詩歌とどのように出会い、どんな風に楽しみ、また、生きてきたかを書いたエッセイが添えられ、ちょっとした詩人伝にもなっています。名だたる面々が登場しますが、取り上げられた「作品」には、これがいわゆる「名作集」だったら選に漏れてしまうかもしれないような、文学史上で決して目立っているとは言いがたいものも結構並びます。語られる詩人たちや作品は次の通りです。
ヤマトタケル/『梁塵秘抄』/近松門左衛門/與謝蕪村/成田狸庵/館柳湾/頼山陽/やまとうた六首/宮崎湖處子/北村透谷/島崎藤村/土井晩翠/與謝野鉄幹/薄田泣菫/蒲原有明/伊良子清白/上田敏/永井荷風/北原白秋/石川啄木/齋藤茂吉/中勘助/高村光太郎/佐藤春夫/萩原朔太郎/芥川龍之介/室生犀星/安西冬衛/中野重治/宮澤賢治/伊東静雄/小熊秀雄/永瀬清子/齋藤史/山田風太郎/谷川雁/吉本隆明/石牟礼道子/森田童子/伊藤比呂美
ヤマトタケルから始まるのも面白いですが、この中で例えば、現代でも広く読まれる芥川龍之介、小説は読んだけど詩を読んだことはない、詩も書いていたとは知らなかった、という方も多いのではないでしょうか?詩とエッセイで愉しませてくれつつ、鑑賞の新しい視座もきっと見つかる、折に触れて読み返しやすい上に勉強になる本です。
日本詩歌思出草/渡辺京二/平凡社/2052円(税込)
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